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繰り返し、何度も見る夢がある。
それは、まだ小さかった頃。いつも遊んでいる森で迷子になってしまった時の夢。
夜が迫り、だんだんと暗くなっていく森の中で、何かが近付いてくる気配がした。
恐くなって逃げて、一人で泣いていた。追いかけてきたのは、見たことのない同い年くらいの男の子だった。
黒い髪の男の子は、手を差し伸べて立ち上がらせると、一緒に帰り道を探してくれた。
ようやく見慣れた村を遠くに見つけて、喜んで振り返ると、男の子はいなくなっていた。
それが、実際にあった出来事。
夢にはその続きがあって、いなくなったはずの男の子が黙ってこちらを見ている。
何かを言いたそうにして、でも、何も言わない。
こちらから何かを問いかけようとすると、目が覚める。
あれは一体何なんだろう。
あの男の子は誰だったんだろう。
その頃の記憶は曖昧で、男の子の顔も黒髪であること以外の特徴も思い出せない。
それこそ本当に夢だったんじゃないかと思う。でも触れた手の温かさは本物で、村に辿り着くまでの間、とても安心したのを覚えている。
あれは夢じゃない。
「……夢……」
目を開けると、そこに広がっていたのは青空だった。
眠りに落ちる前にはなかったはずの気配を感じて、ふっと後ろを向く。すると、
「……ひゃああっ!」
思わず悲鳴を上げてしまった。それを受けた人物は一瞬息を飲んで、ゆっくりと眉を吊り上げた。
「……っくりした……いきなり大声出すんじゃねー!」
頭上から降ってきた大声に驚いて肩を竦めると、彼は不機嫌そうな顔でこちらを見下ろした。
「あれ? グレン……なんで?」
「休憩終わりだから探しにきたんだよ!」
こんなところで眠りこけやがって、とぶつくさ文句を零される。
「ご、ごめんなさい……」
視線を泳がせて俯いた。
魔族は好戦的な種族だと言い伝えられていた。
本人にはとても言えないけど、彼も例に漏れずだと思う。でも。
垂れたままの頭に返されたのは、彼にしては珍しくくぐもった声だった。
「別に……怒ってねえよ」
そっと顔を上げ、ぱちぱちと瞬きをして彼を見る。凝視してしまっていたのがばれたのか、彼はぷいとそっぽを向いて歩き出した。
青々とした丘を下っていく。
その後に続こうとして立ち上がり、衣服についた草を払った。一歩踏み出そうとして留まる。
どうしてだろう。
彼はどこか、 言い伝えとは少し違う気がし始めていた。
「……グレン!」
呼び掛けると、彼は振り向いた。鬱陶しそうな顔をしていると思いきや、予想に反して、少し驚いたような顔をしていた。
「……何でもない」
一瞬呆気に取られたように間が空いて、
「何だそりゃ」
呆れた顔で呟いて、また前を向いて歩き出した。その口元に小さく笑みが浮かんでいたのは、きっと気のせいじゃない。
今じゃなくていい、いつか話してみよう。
小さな頃に起こった不思議な出来事。
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
「ねえグレン、ラカを探してきてくれない」
ダグラスの要望に、グレンは一切取り繕おうともせずに顔を顰めた。
「嫌だ」
「何で? いいじゃん」
「お前が行けばいい」
「さっきから散々探してるよ」
ダグラスがそう言うと、グレンはむうと口を曲げた。グレンの嫌だという態度は分かりやすい。足元の草を蹴っ飛ばす仕草をしながら、グレンはごにょごにょと言い淀んだ。
曰く、
「あいつ、俺見るとビビるだろ」
その言葉を何とか聞き取り、しばしきょとんとするダグラス。そうして次第に口元を緩ませた。
「……何笑ってんだよ」
「いやあ、だって。恐がらせたくないんだね。優しいなあと思って」
グレンは思いきりしかめっ面をしたあと、にまにまと笑うダグラスの足を蹴った。
結構力がこもっていたはずだが、ダグラスはビクともしない。「痛い」と言いつつ、にこにこと表情を崩さないのを見て、グレンは眉間の皺を更に深くした。
「そんなんじゃない」
「うん、そうだよね。でもさ」
話していくうちに分かっていくことって、結構あると思うよ。
そう言って、ダグラスはグレンの背後を指差した。それを目で辿ると小さな丘があった。
「グレンはあっちの方をお願い。オレはもう一回別の場所探してみるから」
「え。おい」
グレンが呼び止めるも、ダグラスはさっさと歩いていってしまった。
「……何だよ」
他人事だと思って。
独りごちて、グレンは渋々丘へと向きを変えた。
自分を恐がるラカとどう距離をとっていいのか分からないグレンの話
グレンにとってラカは、今まで関わったことのないタイプの人間なので
どう接したらいいか分からず、なるべく接触はダグラスに押し付けようとします
ラカもグレンのような荒っぽい言動に耐性がないので、いつも怒っているように見えています
まあその通りなのですが…旅を続けるうちにちょっとずつ慣れていくでしょう(希望的観測)