*│無題

 きらきら光るのは、氷みたいだと思った。

「お、お姉さん……アイス、珍しいの?」

 店主の男がそう言った。
 アイス。アイスの呪文なら知っている。何でも氷付けにしてしまう魔法だ。私でも使える。
 でも、と、すれ違う子供を見る。
 美味しそうに頬張っているそれはオレンジ色をしていて、魔法ではない。魔法は食べられない。

「アイス……」

 屋台の店に並んでいるのは、オレンジ色だけではない。ピンク、水色、黄緑、色とりどりで、それらすべてがきらきらと光っていて、綺麗だった。
 店主は私を見て、冷や汗をかいていた。こんなにひんやりしているのに、汗をかいているのはおかしい。
 まさか。
 毒でも入っているんじゃ。

「くーだーさい」

 その声にはっと我に返って、振り返った。
 二本ね、とピースのサインをしながら、白い大きな男が店主にお金を渡していた。

「だ、ダグラス、駄目です」
「なんで?」
「ど……毒が入ってます」
「何味がいい?」

 毒に味があるのだろうか。
 止める私にはお構い無しに、アイス、と呼ばれるものを品定めしている。

「はい」

 差し出された、キャンディーのような色をした氷の塊。
 店主があからさまにほっとした顔をしている。毒ではないのか。

「早く、溶けちゃうよ」

 そう言われて、恐る恐る、細い枝のような部分を指先で摘まんだ。

「アイスなんて久しぶりだなあ」

 かじったところから、氷の結晶がきらきらと落ちていく。
 冷たい、と彼の口が動いた。

「……食べられる魔法なんて、初めて見ました」

 ん? と首を傾げられたのは、また何かおかしなことを言ってしまったからなのか。
 人間界は不思議なもので溢れている。彼にならって、そっと氷に歯を立てた。

メルはグレンと同じく、人間界の物には基本的に疎いです
じっっっと売り物を見て、店の人を困らせることも多々
珍しくて見てただけなのに、食べたいのだと勘違いするダグラスは鈍いのかもしれません