*│無題

一章〜二章くらいにあったかもしれない話





 白いカップに透き通った琥珀色の液体が注がれる。
 湯気が上がると同時に、ほんのりと甘い香りが立ち上る。花のような、ベリーのような香り。
 目の前の幼馴染をこっそりと盗み見た。身体も手も普通の人より大きくなってしまった彼には、ティーポットさえ規格より小さなものに見える。しかし、所作は流れるように自然だ。きっとこれは彼にとって日常で、何度も繰り返し慣れている行為なのだろう。
 コトン、という小さな音に、ラカがはっとテーブルに視線を移す。カップがソーサーとともに目の前に差し出されている。ラカが視線を上げると、幼馴染――ダグラスはふわりと笑った。

「あ、ありがとう」
「ふふ。いえいえ」

 静かに椅子を引き、彼もまたラカの向かいに着席した。椅子もテーブルも窮屈そうだが、気にした様子はない。
 カップを手に取って両手で包むと、じんわりとした温かさが伝わってくる。ラカがカップを傾けておずおずと一口啜ると、彼はクスクスと笑い出した。

「な、何?」
「ううん。まさか偶然ラカに再会するなんて思わなくて。びっくりしたなあと思って」

 その瞬間、ラカの奥底に潜んでいた小さな違和感がスッと消えてなくなった。
 幼い頃の記憶にある姿から、あまりにも変わってしまった幼馴染を、心のどこかで信じきれていなかったのかもしれない。
 何気ない一言だったが、古い記憶の彼と重ね合わせるにはラカにとって充分だった。
 言葉だけではない。何でもないことで笑って安心させてくれる、唯一無二の友達。

「……わたしも」

 再会してから、初めて自然に笑えた気がする。
 口に含んだハーブティーは、今まで出会ったどんな飲み物よりも温かくて優しい味がした。

ラカとダグラスはお互いに家族のような大切な存在だと思っています。
恋愛関係に発展することがまずない取り合わせです。
お互いにそういう感情に疎いというのもあるのですが、そもそも異性として
認識していないんじゃないかというのが個人的に最有力説です。良い意味で。