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剣を鞘に収めると、森に再び静寂が訪れる。
一息ついて、全員の無事を確認すると、グレンは予定どおりの道のりに歩を進めた。
最初は戸惑った剣の扱い方もだいぶマシになり、三下相手なら擦り傷一つ負わずに倒せるようになった。
おかげで、ダグラス手製の塗り薬の世話になることもほとんどなくなり、グレンは清々していた。
ラカなどは「いい匂い」だと言うが、グレンにはあれの良さがこれっぽっちも分からない。
「あれっ」
ダグラスの声に、グレンは振り向いた。ダグラスはグレンの足元を指差している。
「服、破けてるよ」
腰を捻って見てみると、確かに。腰に巻いている上着の一部が、斜めに裂けている。
魔物の爪を避けた際に引っかかったのだろう。
「マジか……」
グレンは深く溜め息をついた。
服が破けたのはどうでもいい。ただ、さっきのは余裕で倒せる魔物だった。もし爪が皮膚まで到達していたら、当然、服が破けた程度では済まない。
格下の魔物相手に、怪我を負ってしまう可能性があったということだ。
まだまだ剣の技術は未熟らしい。そういう意味での溜め息だった。
「オレ、裁縫道具持ってるから、直してあげるよ」
ダグラスはニコリと笑って手を出した。
「あ? いいよ、破けただけだし」
「そうやって放っておくと、すぐボロボロになるんだから。街に着いたら縫ってあげる」
グレンは、ダグラスの顔と差し出された手を交互に見た。
まあ、そう言うなら直してもらってもいいか。タダだし。
巻きつけているのを解いてダグラスに手渡すと、彼は荷物の中にしまいこんだ。
この判断が、グレンを後悔させることになるのにそう時間はかからない。
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ひくりと顔を引き攣らせるグレンと、何やら音程の外れた鼻歌を歌いながら道具をしまっているダグラスの姿が、街の宿の一室に見えた。
「……おい」
「何?」
「『直す』っつったよな?」
「可愛いでしょう?」
直した箇所を両手で広げて見せ、ダグラスが笑いかけると、グレンは頭を抱えてテーブルに凭れかかった。
……『直す』って言ったのに。『直す』って言ったのに!
濃いグレー一色のモノトーンなグレンの上着は、カラフルなお花畑になっていた。
どういうことかというと。ダグラスは、破けた部分を同じ色の糸で縫い合わせるということをしなかった。
ご丁寧に、色とりどりの布を使った花のアップリケを施していた。
こんなファンシーな服を着ている男がいたら、誰だって間違いなく距離を取るだろう。直すどころか悪化している。自分がこれを身に付けて闊歩している様を想像して、グレンは顔を青ざめさせた。
ダグラスはというと、グレンの思いなどまったく気付かず、引き続きとんちんかんな鼻歌を歌っている。
何だって、この男は。
やるなら自分の服にすればいいものを。
しかし、既にやってしまったもの(しかも好意で)を無下に「やり直せ」とも言えず。
次に同じ箇所が破けるまで、アップリケを隠しながら壁伝いに歩くグレンの姿が街中で確認されたとか、そうじゃないとか。